先ず驚かされたのは、この研修の運営スタッフの充実振りでした。このキャンプの受講者が前半の3日間で6名、後半の3日間で6名(内1名は女性)、そこに日本から行った私達4名と少人数なのに対し、講師他スタッフは主任講師のマイク・ロアーマンさんを始め、現役のNBAオフィシャル(NBA審判)2名、スーパーバイザー3名、事務局2名と本当に充実した環境の中で行われました。 受講者も、ABAのオフィシャル、NCAAのオフィシャルなどなど様々で、やはりNBAのオフィシャルがその頂点に君臨しているのだと再認識させられました。
13日到着の当日夕方から、受講者、スタッフ全員が集まり6日間のスケジュールを確認し、翌日からは毎朝8時30分に集合、午前中はみっちり講義(ケーススタディ)です。NBA昨シーズンのビデオを見ながら、まずは、リード、スラット(センター)、トレール各審判の責任分担の確認や、位置取り、ブロック、チャージ、トラベリング、ブロックショット等のあらゆるケースを皆で意見を交換し合います。 受講者は、間違っていようがいまいが自分の意見をハッキリと言います(これには圧倒されました)。 また、コーチやプレイヤーからのクレームに対応すべき、ロールプレーや、ディレクションの指し方、オフィシャルへのコールの仕方、歩き方、タイムアウト中の立ち姿といった細かいところまで徹底的に指導をされます。
午後は、実際にNBAサマーリーグのゲームでオフィシャルとしての実技です。 その際のオフィシャルの動きは、全てビデオで収録されていて、翌日に全員でそれを見ながら復習をし、習った事を確認し修正を行います。 一日の終了は、早くて10時、遅ければ11時過ぎになる非常にタフなスケジュールでしたが、二度とないような素晴らしいチャンスが訪れました。
マイク講師の粋な計らいで、次のゲームで笛を吹けと言うのです! サマーリーグとは言え、本物のNBAのゲームです。 私たちの参加するゲームの対戦チームは幸運にも、NBA入りが有望視されている、あの田臥勇太選手が参加しているフェニックス サンズと、一昨年まで松下電器の指揮を執っていた、ポール・ウエストヘッドさんをコーチに配すオーランド マジック の対戦でしたので、「えっ?俺たちがこんな凄いゲームを?いいの?」と思う緊張感と当時に、「よーし、やってやろう!」というチャレンジ精神がフツフツと湧き、とても興奮しました。
NBAの審判部長ロニー・ナンさんから、TVで見ていた憧れのNBAオフィシャルのシャツを「さぁ、これで君たちもNBAのオフィシャルだ!」と4人に手渡された時のあの感動は、今思い起こしても鳥肌が立ちます。 今まで、スタンドで観戦し”憧れ”でしかなかった私たちが、今はコートに立っているのです。 しかもNBAのオフィシャルとして!
4人の日本人審判が、各クーオーター1人づつ順番に笛を吹きましたが、まさにアッ!と言う間だったようです。 恐らく、プレーをしている選手達も次々現れるナゾの東洋人審判の存在がとても不思議だったに違いありません。 ゲームルールの違いから多少の失敗もありましたが、他の審判や選手と同じ目線に立ってゲームをジャッジし、そのプレーの高さとスピードを体感できたのは、緊張を通り超え感動に変わり、ほんの12分間でしたが言葉では言表せられない、人生最高の経験でした。
反省をしてみれば、テクニカルな部分では、私を含めた他の日本人審判でもファールやバイオレーション(トラベリングを含む)を捕らえるスキルは、NBAのオフィシャルにもそれほど引けを取らないと自負しています。 しかしながら、メンタルな部分では、まだまだ学ぶべき事は多くあります。 そんな中でも私にとって最も有意義だったのは、今まで日本でやって来たこと、教えられてきたことは全く間違っていないのだと自信を深められる場であった事です。 自分の信念でもある「審判は常に自信を持って、毅然とした態度で、勢いを持ってジャッジを行うこと」がとても大切な要素だと確認できた事、またプレイヤーやコーチが次に何をやろうとしているかをいち早く察知する事など、日頃当たり前の様に言われている基本的なことが、何十年ジャッジしていようとも本当に大切なのだと痛感できました。 参加した4人が4人それぞれの12分間の思いや感想があったようで、その夜は“今日の椿事”を肴に大いに盛り上がった事は言うまでもありません。
参加期間中、言葉の違いによるもどかしさも多々ありましたが、バスケットボールを通じての審判の使命は、言葉の壁、日米の壁を越えて世界共通なのだと教えられました。 今回のNBA Official Campに参加できたことは、私の審判生活25年の中でも最高の誇りであり、ここで学んだテクニックや精神は、今後の後進の指導において、また自身の審判のあり方等々、様々な場面で大いに貢献してくれるものと確信しています。
